不機嫌な恋なら、先生と
合コンの日。
約束の時間を三十分は過ぎていたけど、私としては頑張ったほうだと思う。
予約してくれたお店は、私に気を遣って、近くのお店を選んでくれたことも、ありがたかった。
店員に導かれて、和食屋さんのお座敷に行く。手前にいた澄美が私に気づき手を振る。一番勤務地が遠いはずなのに、今日は定時で上がって、一時間ちょっとかけて銀座に来たと得意げに言う。会うのは夏ぶりだった。
会釈してコートを脱いでお座敷に座る。
乾杯の後に、おのおの挨拶をする。私が出版社で編集の仕事をしていると伝えると、「なんの漫画?」「ワンピース?」と食いつかれたけど、全然違くて困って笑い返した。
私の目の前に座っていた彼が、私達とタメの男の子で、澄美の同期。澤辺くんといった。
他の人はみんな先輩らしく、部署は営業といっていて、先生はマーケティングと言っていたものだから、直接的な繋がりはないかなとも思った。
そして浅はかだと気が付いたのは、先生は覆面作家だから、繋がりをあからさまに公表できない。だから探ろうにも下手なことを言えなかった。
「なんかなつめちゃんって見たことある気がする」と澤辺くんに言われたけど、私は思い出せず首を傾げた。
「それ口説き文句?」と、澄美に冷やかされると、「いやそういうんじゃなくてさ」としどろもどろになった。
それから場が馴染み始めた頃、席移動をして、隣になった人に「サギサカさんって知ってますか?」と、訊いてみたけど、知らないといわれて、結局なんの収穫もなかった。
こんなものだよね。
少しがっかりはしたけど、そこまで期待があったわけじゃない。