不機嫌な恋なら、先生と
そろそろ終わりかなと思った頃に、澄美と連れ立ってパウダールームに行った。
メイクを直しながら「どう?いい人いた?」と訊かれるけど、首を振る。
「そっかー。まあ合コンでなかなか運命の出会いなんてなかったりするからね」
私を慰めると、澄美が先に戻った。
運命の出会いか。私はいつになったら、そう思えるような恋ができるのかな。
心も体も許せるような相手って、いるようでなかなかいない。でもこのままちゃんとした恋をしないのも、嫌だなとは思う。
口角をあげて、鏡を見る。大丈夫と言い聞かせないと時々、心が折れそうになる。お酒を飲むと、特に寂しさって強調される気がするんだ。
扉を開けて、お座敷に戻る途中だった。
少しウェーブのかかった髪の女性が目に入る。横顔はツンとした鼻と長いまつ毛が印象的。その隣にいたのは、先生だった。
もしかしてデートかな。声はかけないほうがいいよね。
でもあそこを通らないと、座敷には戻れない。素通りをしようと思っていたのに、少し近づくと、先生から「箱崎さん?」と声をかけられてしまった。
「あ、偶然ですね。びっくりしました」
「うん。忘年会でね。箱崎さんは?」
よく見ると、周りには同僚だと思われるスーツ姿の人が数人いた。レジ前でお会計か何かを待っているように見えた。女性も私を見たあと、気を遣ったのかその輪に加わるように離れた。
あんな綺麗な人が同じ職場にいるんだ。
「箱崎さん?」
「あ、友達と食事に来て。それでは失礼します」と短く告げて、戻った。