不機嫌な恋なら、先生と

合コンは、その場で解散した。

喉が渇いたから、ミネラルウォーターでも買って帰ろう。銀座通りを歩く。街路樹にはシャンパンゴールドのLEDが装飾されていて、街並みを輝かせていた。

バカみたいだな。自分。

華やかな通りを一人で歩いていることと、久し振りに飲んだアルコールが余計にそんな気分を高めるのを手伝って笑いたくなる。

「なつめちゃん」

呼ばれて立ち止まると、さっきサギサカっていう人は知らないと答えてくれた人だった。

「どうしました?」

「いや。ひとりで帰らすの危ないと思って」

「あ。大丈夫ですよ。私、職場近いので、ここからだったら迷いません」

「いや。そういう心配じゃなくて、お酒飲んでるから、女の子ひとりは危ないでしょ」

そういうことか、斜め後ろ方向くらいの返答だった。

「すみません。でもそんなに酔ってないし」

「いいよ。一緒にいたいの」と、言うから、驚いた。

「えっと」

私は別に……は、言ってないけない科白だよなと考えていると言葉が出てこない。有無をいわさず、強引と言っていいだろう。私の腰に手を添えると、「行こう」と言った。

その瞬間、背中が粟立った。初めての彼と手を繋いだあの日を思い出す。

「あ、本当に大丈夫です」と、突っぱねる。それに彼も驚いたみたいで、目を丸くして私を見た。

今日会ったばかりの人に、触れられるって、怖いものがある。この人はきっとそういう感覚のない人なんだろう。でも、嫌なものは嫌と言っておかないと。

またわずわらしいことが起きても困るから。

「びっくりした。そんな風に突き飛ばさなくてもいいだろ?」

と、さすがに、彼も腹が立ったみたいで、私を睨んだ。
< 81 / 267 >

この作品をシェア

pagetop