不機嫌な恋なら、先生と

「集中ですか?」

「ああ。自分が望んでいない場所でも、望んでいる場所に感覚は変えることができるはずだから。つまらないのは、集中してないだけってこと」

「先生。それって……」

呟くと、白い雪が落ちていく。雨がいつの間にか、雪に変わっていた。

「あ」

手のひらを空に向けると、乗っかる。

「先生、雪ですよ」と、先生に見せると、「見せなくてもわかるよ」と困った子供に教えるように言う。

「あっ、そっか。そうですよね。雪だ」

首を持ち上げて、今度は空を見た。先生も傘を降ろして、見上げた。

どこから落ちてくるんだろう。暗い夜空の向こうまで手を伸ばしてみたくなる。

そのとき、ベルと鈴の音が響き渡った。クリスマスソングが流れだすと、楽器店の前に置かれていた大きなクリスマスツリーのイルミネーションが点滅してきらめいた。

テンポに合わせて、紫や青にピンクと色がどんどん変わっていく。ト音記号のオーナメントも可愛らしくて、見とれた。

「正時になると、音楽鳴るって聞いてたけど、初めて見た」

「私もです。なんか嬉しいですね」

「さっきまで怒ってたのに」と先生はからかうように言うから、少しだけむっとして気を取り直す。

「ホワイトクリスマスになりますかねー」

「今年はどうだろ」

「クリスマスか」

「楽しみじゃなさそうだね」

「え?」

「そんな顔してるけど」

「そうですね。今日がクリスマスだったら、私、とっても幸せだったんだろうと、今、思いました」

微笑むと、先生は私に顔を寄せた。

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