不機嫌な恋なら、先生と

一歩踏み込めば、唇が重ねられそうな距離で止まると、「どうして避けないの?」と、囁く。

「え……あ……あの、観察の一部なのかと」

「観察だったら、していいの?」

「え?」

「観察だったら、してみないとわからないじゃん」

少し顔が離れて、先生は私を見つめた。

観察だったら、していいって。キスを?

あれ。あ。というか、私、先生に彼氏がいると言ってたんだ、ダメに決まってる。それ以前の問題か。

「お付きあいしていない人とはダメです」と両手で口元を覆った。

そこで先生は優しい顔に変わって、ほっとする。

「そこまでする?」

「しますよ。私、好きな人とキスしたいですから。先生とは違います」

「俺だって、好きな人としかキスしたいと思わないけど」

「ですよね。そうですよね」

安心すると、なんだかおかしく思えてケラケラ笑えた。悪い冗談を言うのにも慣れないとな。アルコールのせいか、喜怒哀楽が変わるのが早いと自分のことをどこか冷静に思ったりもした。

「箱崎さんさ」

「はい」

「まともに付き合ったことないでしょ?」

ふっと酔いが覚める一言だった。
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