不機嫌な恋なら、先生と
クリスマスのトラブル
「なんか今日、調子悪そうだね」
デスクに座り、メイクアップアーティストKAMAのメイク本、「どブスを少しは可愛くみせる魔法」に目を通していると沙弥子さんが後ろにいつの間にかいた。
「そう見えます?」
「なんか遠い目してるから。そんな目に悪そうな本読んでるからじゃない?」
「えっ? 目に悪いですかね?」
「悪いわよ!変な化粧をしたおっさんがところどころに写って目に毒だっつうの!」
「沙弥子さんはイケメン以外、厳しいですね」
「こいつはあたしの敵だわ。ああ寒気がする」と呟くと、カリカリした様子で出て行った。知り合いのように当たり散らすけど、彼氏と何かあったんだろうか。
先生に送った謝罪のメールを読み返した。返事はまだない。
おでこにキスをしたくせに、先生は、何事もなかったかのように、タクシーを停めて、私を家まで送ってくれたんだ。
車内では、私に触れることもなかったし、私も気まずくて眠ったふりをした。
それにしても酔った勢いとはいえ、沙弥子さんとの関係を疑うって、何してるんだ。私。ああ、恥ずかしい。
弱みを握るどころか、失態ばかり見られている。弱みを握られているのって、私じゃないかって思う。
ハァと溜め息を吐きたくなる。
こんなんじゃ先生と信頼関係を築くのも難しい。このままではいけない。沙弥子さんが言った通り、体で……と、冗談でもすごいことを考えてしまった。
ぶんぶんと首を振る。
それは、ない。そうまでするなら、異動願いを毎日、提出したほうがいい。土下座でもしたほうがいい。プライドは持たないと。