不機嫌な恋なら、先生と
「あ……」
私は、知らなかった。
花愛ちゃんの額や腕、身体のあちこちに、生まれつきの痣があり、それをコンプレックスだと隠して生きてきたことを。
言われてみれば、おでこを出すところは見たことなかったし、撮影中にノースリーブの服を着たりすることもなかったから特に気にも留めなかった。
それはもしかしたら、そのことを知っているスタッフ、周りの配慮があったからだ。
ヒカリさんと話して、例えば自分みたいに痣のある子にも勇気を持たすことができたらと、さらすことに決めたらしい。最後だから、何も隠さない自分を見せてみたくなったと。
「こんなの……知らなかったです」
「そう。まあ三上も大事なところを共有してなかったのは、良くなかったとは思うけどね。
で、この企画はどう思う?」
ヒカリさんの企画書にもう一度、視線を落とした。
花愛ちゃんが誌面に自分のコンプレックスをさらそうと思った決意と、そんな彼女にメイクすると依頼を受け入れたKAMAさん。それを企画したヒカリさんの思いを考えると、このままボツにしてしまうのは、もったいない気がした。
私がすべきことは、それを実現するまでのサポートだったんだと、気づいた。
自信を持って笑う花愛ちゃんを見てみたかったのは、ヒカリさんだけではもうなくなってる。
「読んでみたいです」
やっぱり、このまま企画がなくなるのは、嫌だ。最後なんだから、後悔しないでほしい。
「編集長、私、花愛ちゃんに会いに行ってきます。必ず説得してきますので、ちょっと待ってください」と、私は給湯室を飛び出し編集部まで走っていた。
後ろで名前を呼ばれた気がしたけど、立ち止まれなかった。
たぶん止まったら、走れなくなる。
コートと鞄を持ち、花愛ちゃんの家の住所をチェックする。
デスクに座り、受話器に耳を当ててたヒカリさんを横目で見て、私は編集部を出た。