不機嫌な恋なら、先生と
恐怖と勇気は
駅へと急ぐ。通りを走っていると、向こうから来た人と、肩がぶつかった。
「すみません」顔を上げると、先生だった。
「あ……」
そこで思い出した。今日は先生が取材に来る日だったと。頭が真っ白になった。
「えっと」
「どうした?急いで?」
「先生、あの、その……」
「大丈夫?」先生は言った。
「あ、大丈夫です」と、条件反射みたいに答えていた。
「箱崎さんの大丈夫は、大丈夫じゃなさそうだけど」
「どういうことですか?」
「頑固だから」
「が……頑固って」
「だから、たまには頼ってほしくなるものだよ。周りは。何か急用でもできた?」
先生はゆっくりした口調で私に訊くから、冷静さを取り戻さないといけないと気づき、こくりと頷いた。
先生には申し訳ないけど、時間がない。調整を申し出るしかないと決めた。
でもなんて言おう。
「すみません。
実はトラブルがあって、モデルがドタキャンしてしまったんです。
それで、今代わりのモデルを探してたりしていて。
あの……先生の取材のことは勿論覚えていたんですけど、バタバタしているので、編集部のほうで少しだけ待っていてもらえ……」
ハッとした。
先生に見つめられていることに気づくと、同時に私が目を合わせないで話していることがわかった。
なんだろう。当たり障りない言い訳を口にしたつもりなのに、悪い嘘をついている様な気持ちになる。
いつも気に入られようと意識して話しているのに、頼ってもいいとか、先生が言うから考えてしまうのかな。