レンズ越しの鼓動
美しいものしか撮らないということは、
自分が美しいと思わなければ、
その仕事は引き受けない。
……何度か注文を相田さんに伝えたけれど、
引き受けてくれなかったって、
先輩が嘆いてたな。
……無理でしょ。
相田さんが引き受けた注文は、
年に5つくらいらしい。
そんななかで私の注文を聞いてくれるわけない。
……最初から諦めててもしかたないよね。
ガタッとキャスター付きの椅子を鳴らして、
勢いよく立ち上がり、
以前、注文を断られた不憫な先輩に相田樹の
連絡先を聞いて、お気に入りの付箋に書き留める。
「なんか、緊張してきた……」
難攻不落の天才カメラマンを落とす。
私に出きるか不安だけど。
私は胸の前で小さく拳を握りしめ、
座っているデスクの受話器を取った。
プルルル、と受話器から機械音が聞こえて、
カチッと切れる音。
「も、もしもし。」
「……はい?」
耳元から聞こえた少し低い声。
その声を聞いた瞬間、無意識に体が固まる。
「あ、あの、
私、アートアクティブ事務所の瀬戸と申します。」
「ああ、何ですか?」
淡々と答える相田さんの声は、
想像してたよりずっと、冷ややかなもので、
少し怖じ気づいた。