レンズ越しの鼓動
……ダメダメ。
ここで引いたら本当に断られちゃう。
私は小さく深呼吸をして、
また口を開いた。
「この度、新作香水の広告用写真を
撮っていただきたく、お電話させていただいたのですが……」
「香水?」
相田さんがそう言った瞬間、
ピリッとした緊張感が走る。
手汗がにじみ出し、受話器を危うく
落っことしそうになる。
……やっぱり、荷が重い。
年間に5つしか引き受けない人気カメラマンを
まだ三年目の新人の私が注文するなんて。
でも、やっぱりダメでした、なんて言ったら
誰になんて言われるかわからない。
「新種の薔薇を使った香水で、
カット撮影を頼みたいのですが……」
「やだ。」
「え?」
今この人なんて言った?
やだって聞こえた気がするんだけど……
低い冷ややかな声で発せられた言葉に
耳を疑った。
「あ、あのー、
どの辺りが?」
「俺、香水好きじゃないんで。」
はい!?