レンズ越しの鼓動
相田樹は天才だけど変人。
良い写真を撮れる5才児。
色んな噂が飛び交って、
どれが本当のものなのか、どれが嘘なのか、
分からなかった。
そもそも、噂なんてものはほとんど、
誰かが流した嘘だと思ってた。
けど、
……ほとんど噂が、
あながち間違いじゃないのかも。
相田さんの言葉に、呆気にとられつつも、
冷静に、そんなことを考えていると、
しびれを切らしたように、相田さんが口を開いた。
「要件それだけ?
じゃあ、もういいよね。」
「あっ、ちょっと待って……!」
ツーツー、と無機質な音が耳元で流れた。
なんか、デジャヴ……。
少し前の電話のように、
私の声は相田さんに無情にも届かなかった。
「やっぱりダメだったかぁ。」
私が受話器を置くのと同時に、
背後から聞こえた、相田さんと比べると
少し高い声。
「やっぱりダメだったよ~!
出来損ないの私を慰めて!美咲!」
くるっと椅子を回して、
後ろに居る同期の美咲に勢いよく抱きつく。
美咲の腰に腕をまわして、
頬をお腹にくっつけた時、ふわっと、
微かに薔薇の香りがした。