レンズ越しの鼓動
「もしかして、美咲、
あの香水つけたの?」
「おっ、よく気づいたねぇ。
今度の撮影用に使うやつ、
試作品だけど試しにつけてみてくださいって
言ってくれたから、お言葉に甘えて。
どう?いい香り?」
そう言って人より少し大きい目を細め、
私から離れて、嬉しそうにくるっと、
まわってみせた美咲。
ひらひらとスカートが広がるのと同時に、
またふわっと、薔薇の香りがした。
インパクトが強いけど、
香りがきついわけじゃなくって、
優しい感じ。
うん、すごく好きな香り!
「いいね。
私この香り好き。」
「本当?よかった。」
ふふっと微笑んでそう言った美咲に
さっきまで落ち込んでいた気持ちが、
簡単に上がっていく。
……和むなぁ美咲って。
「それで?相田樹に連絡したんでしょ?」
さっきまで笑っていた美咲は一転、
一編集者のプロの顔に変わる。
「うん……ダメだったけどね。」
「やっぱりね。
気難しい人だとは聞いてたけど。」
……本当、こんな難しい案件、
先輩に頼んどけばよかった。
“諦めずに粘れば、
案外いけるかもよ?がんばって!”
美咲はそう言って私に笑顔を見せて、
自分のデスクにもどっていった。