レンズ越しの鼓動
私は意を決して、
少し震える手でもう一度受話器を取った。
「もしもし。」
「……また、あんた?」
さっきよりもずっと低い、
冷淡な声。
その声に早くも意志が弱くなる。
……でも、大丈夫。
「……先程は、いきなりのお電話失礼しました。」
「そんなこというために電話してきたの?」
話をしてみても相田さんのトーンが上がる気配はない。
こうなったらもう、意地だ。
私だってそう簡単に折れてやらない。
私は改めてぎゅっと受話器を握りしめ、
口を開いた。
「相田さんのお写真、拝見させていただきました。」
「……それで?」
「……私はカメラのことに関しては、
まだまだ素人ですし、こんなこと言うのは、
失礼かと思いますが、」
……私だってデザイン事務所の編集者。
どんな写真がより目を惹くか、
どんなレイアウトがより印象強いか、
それくらいならわかる。
相田さんの写真はどこをどう見たって、
素晴らしいものだった。
「……だから、あなたじゃなきゃだめなんです。
相田さんの写真じゃなきゃ、だめなんです。」
「……なに、それ。
そう言えって誰かに指示されたの?
俺、そういうのが一番嫌いなんですけど。」