恋愛図書館


「親父、ティラミス持って来たよ。

まだまだ結歌ほどじゃないけどさ、年々味は上がってるだろ?」


墓参りに来る度に…

結歌と来た日が思い浮かぶ。


キミは約束通りティラミスを作って、一緒に手を合わせてくれた。



俺が墓石の親父に紹介したら、
キミもお辞儀とともに挨拶して…

それから2人で、ピカピカになるまで掃除したよな。



ー両親とも他界してるー
俺はそう告げてたのに。

墓石の裏に、母親らしき名前が刻まれてないのを目にして…
キミはどう思っただろう。


だけどその事には触れる気配もなく…

礼拝の後しばらくは、親父の前で他愛ない話を交わしたね。



そして帰り道…

「紹介してくれて、ありがとね」って、
柔らかな笑顔で呟いたキミが愛しくて。


今日みたいな、5月の穏やかな日差しが降り注ぐ中…
ぎゅっと繋いだ手を離せなかった。




そんな思い出は。

別れて最初の墓参りの時には、酷く辛い記憶だったけど…

今では切なくも、仄かにあったかい。
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