御曹司と溺甘ルームシェア

「申し訳ないのですが、僕には彼女がいるので結婚できません」

紳士スマイルを浮かべると、響人は立ち上がって私の手を引いて歩き出す。

「ち……ちょっと待って下さい。こんなの納得出来ません」

慌てて佐々木コーポレーションの社長令嬢が呼び止めると、響人は振り返った。

「こんな形で結婚してもあなたを幸せには出来ないと思います。僕はあなたには相応しくない」

キザな台詞を吐くと、私を連れて響人はスタスタと個室を出る。すると、通路の壁に寄りかかってこちらの状況を窺っていた岡田と出くわした。

「後は僕に任せて」

私達のやり取りを聞いていたのか、岡田は意味ありげな視線を響人に投げ何か手渡した。

「悪い」

響人が礼を言うと、岡田は私にチラリと目を向けながら声を潜めて響人に何かを伝える。すると、普段仲が良いのに響人がギロリと岡田を睨んだ。