クールな社長の甘く危険な独占愛
冷たいひと
一
メープル材のデスクの上に肘をつき、癖のない黒髪をかきあげる。
白い袖から見える細い手首と、そこから続く大きな掌と長い指。
書類に目を落とすと、男性とは思えない長い睫毛が、頬に影を作った。
綺麗な人。
さつきは不本意ながらも、つい見とれてしまった。
社長は、銀縁のメガネを人差し指で持ち上げて、ちらっとさつきを見る。さつきの身体がこわばり、冷や汗が背中を伝った。
「まだなんかあるのか?」
低くて、少しかすれてる。女性のような顔立ちからは想像もできないような、威圧感のある鋭い声音。
「いえ、申し訳ございません」
さつきは頭をさげると、早々に社長室から退出した。
扉を閉めると、肩の力が抜ける。思わず掌で額をぬぐった。
「今日はまた一段と、まずい感じですね」
小声で篠山リカが話しかけてきた。
「そうみたい」
さつきも小声でそう答えた。「気をつけましょう」
「はい」
リカは大きくうなづいた。
「さっき上がってきた稟議書のせいでしょうか」
リカが尋ねる。
「そうだと思うわ」
「竹中さん、絞られなきゃいいけれど」
リカは心配そうに眉をひそめた。
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