クールな社長の甘く危険な独占愛
冷たいひと


メープル材のデスクの上に肘をつき、癖のない黒髪をかきあげる。
白い袖から見える細い手首と、そこから続く大きな掌と長い指。
書類に目を落とすと、男性とは思えない長い睫毛が、頬に影を作った。

綺麗な人。

さつきは不本意ながらも、つい見とれてしまった。

社長は、銀縁のメガネを人差し指で持ち上げて、ちらっとさつきを見る。さつきの身体がこわばり、冷や汗が背中を伝った。

「まだなんかあるのか?」
低くて、少しかすれてる。女性のような顔立ちからは想像もできないような、威圧感のある鋭い声音。

「いえ、申し訳ございません」
さつきは頭をさげると、早々に社長室から退出した。

扉を閉めると、肩の力が抜ける。思わず掌で額をぬぐった。

「今日はまた一段と、まずい感じですね」
小声で篠山リカが話しかけてきた。

「そうみたい」
さつきも小声でそう答えた。「気をつけましょう」

「はい」
リカは大きくうなづいた。

「さっき上がってきた稟議書のせいでしょうか」
リカが尋ねる。

「そうだと思うわ」
「竹中さん、絞られなきゃいいけれど」

リカは心配そうに眉をひそめた。




< 1 / 204 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop