クールな社長の甘く危険な独占愛
五
明け方近く。
ビルとビルの間に、静かに朝が覗く。
ソファーで毛布に包まるさつきの寝息が聞こえる。ベッドに寝ろと言っても聞かなかった。
『結婚します』と言ったさつきから、自分に対して見せていた警戒心や動揺が消え失せた。
目の前には心を決めた女性が一人いるだけで、からかって遊んだ秘書はいなくなっていた。
「また、偽婚約者を探さないと」
ベッドに座り、小さく呟く。
ゲームが終われば解放するつもりだった。さつきにキスをせがまれれば、ちょっとした優越感と自尊心を満たされて。『結婚する』って言っても止めはしない。そのつもりだったから。
和茂はベッドから立ち上がり、眠るさつきの前に立った。メガネはガラステーブルの上にきちんと置かれている。クッションを抱いて、瞳を閉じ、肩が規則正しい呼吸で上下する。
和茂は床にあぐらをかいて、寝顔をみつめた。
寝顔を見るのは初めてじゃない。酔っ払った時にもベッドまで連れて行った。パンダ柄のパジャマを着せて、毛布をかけた。本当に色気も何もなくて、思わず笑った記憶がある。
でも今、目の前のさつきは、あまりにも無防備すぎて、心配になる。こんな姿、男だったら平静じゃいられない。
あいつは、毎日、さつきのこんな姿を見るんだな。
和茂は、一人置いて行かれるような気持ちになった。
思わずさつきの前髪を手でかき上げる。
生え際のやわらかな産毛が手に触る。
その産毛に、そっと唇を寄せた。
なぜ、そうしたのかわからない。
でもしたかったから、キスをした。
はじめて、そういう、キスをした。