クールな社長の甘く危険な独占愛

夕闇が近づいてくると、心細くなってくる。

さつきは便箋に退職願を書き始めた。

『一身上の都合で……』
書きながら思う。女性は結婚退職するとき、もっと幸せに満ち溢れているものじゃないだろうか。

『好きじゃないのに、結婚するなんて馬鹿じゃないか』
社長の言葉を思い出す。

「馬鹿じゃありません」
声に出して言う。

「馬鹿じゃないもん」
さつきの瞳から涙が流れた。「だって、このままは苦しいもん」

メガネをとって、涙を拭う。
高級メガネに、大きな水滴が付いている。

憧れと好きは、どう違う?
よくわからないけれど、きっと、社長のこと忘れられない。

さつきは顔を覆って泣き出した。

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