クールな社長の甘く危険な独占愛
いつものバーに、ビニールサンダルをペタンペタン言わせながら向かった。
夜の空気は湿気ている。一雨くるかもしれない。
「いらっしゃい」
マスターが笑顔で迎えてくれた。
この間さつきときた時に座った、カウンター席に座る。
「いつもの」
和茂が言うと、「あれ、今日は一人? 珍しい」とマスターから声がかかった。
「たまには一人」
和茂は笑うと「人間関係、掃除しちゃったから、つるむ人いなくなっちゃったんでしょ?」と返ってきた。
「う……ん、そっか」
出されたグラスに口をつけて、ここ最近、さつきとばかり一緒にいたなと思い至る。
「また、ハメ外すかな」
和茂が小さな声で言うと、マスターがすかさず「おや?」と首を突っ込んできた。
「振られた?」
「振られてないよ」
「でも、その落ち込みよう。おかしいもの」
「落ち込んでない」
「あー、わかりやす〜い」
マスターは俄然楽しくなってきたようで、嬉しそうに手を叩く。
「あの子に、振られたんだ」
「違うって。彼女が退職願を出してきただけ」
「あ、セクハラに嫌気がさしたって?」
「いや、実家に帰って結婚するって」
マスターが大げさに目を見開く。「賢明、ソレ」
「そうだろ? 好きでもない男とだけど、それでも俺に遊ばれるよりは幸せになれるって」
「そうよねー。いいわ、結婚」
マスターが夢見るような顔をした。