クールな社長の甘く危険な独占愛
和茂はしばらく黙ってグラスを傾ける。今日に限って、アルコールが不思議と身体に回った。
「気持ちは伝えたの?」
突然、マスターが言った。
「あ? 何いってんだ」
和茂は鼻で笑う。
「だから、『好き』って、言った?」
「……別に、そんなんじゃないし」
「えー」
疑いの眼差しを向けられて、和茂は至極居心地が悪い。
「好きなんでしょ?」
「俺、女に本気になったことないからな……」
マスターがじっと見つめてくる。
あんまりにも露骨な顔なので、グラスの酒を引っ掛けてやろうかと思った。
「じゃあ、初恋だ」
「……んな、バカな」
「じゃあじゃあ、いつが初恋って、話せる?」
和茂はしばらく考える。初めてやらせてくれた家庭教師の顔は浮かんだが、初恋とは言い難い。
「ほら、やっぱり。これが初恋なのよ」
「いや、違うって」
「知らないのよ、恋をしたことがないから。恋ってどんなものか、ピンときてないのよ」
真っ向からそう言われると、自分でもよくわからなくなってきた。
でも、今更そんなこと言われても……。
「彼女は幸せになりたいって、言ってるんだ。放っておいたほうがいい」
和茂はそう言って、グラスを煽る。
マスターがバカにしたような顔をした。
「バカねー、自分が幸せにすりゃいいだけなのに」