クールな社長の甘く危険な独占愛
「幸せに?」
グラスを持った手が止まる。
そんなこと、できるのか?
なんでも完璧な兄貴でさえ、美麻を幸せにできなかったっていうのに?
「もー、頭でっかちね」
マスターが残念そうにため息をつく。
「心のままに、とりあえず動けばいいのよ」
和茂はカウンターにグラスを置いた。
立ち上がる。
「……行くの?」
マスターの顔に笑みが広がる。
「とりあえず」
和茂はそういうと、マスターに背を向けた。
「中学生みたいで、素敵よー」
背中から声が聞こえたけれど、内容は理解できない。
和茂の頭の中はさつきで溢れていた。
扉を開けると、雨が降り始めている。
さつきはもう、マンションを出ただろうか。
パラパラと水の玉が肌に跳ねる。和茂はマンションの方へ走り出した。
とにかく彼女が気になる。
あの婚約者に、たとえ一度だったとしても、抱かれただなんて許せない。
婚約者がいたなら、からかうのも楽しいかと思ったけれど、とんでもなかった。
腹が立って、イライラして、面白いことなんかひとつもない。
どうしてだ?
なんでだ?
なんで、いつも、彼女のことばかり、考えてるんだ。