クールな社長の甘く危険な独占愛
二
さつきは秘書室の扉をあけ、こっそりと顔をのぞかせた。
「あっ、長尾さん」
一番に出社していたリカが、大きな声を上げた。
「あれ? 有休とるんじゃないんですか?」
手に雑巾を持ちながら、パタパタとさつきのところに駆け寄ってきた。
「えっと、それがね」
さつきは気まずい気持ちでうつむく。「退職するの、やめたの」
「ほんと?! じゃあ、結婚は?」
「破談に」
「えーっ」
リカは悲しそうな顔で叫んだ。
「じゃあ、傷心なんですね」
「まあ、一応……」
「個人的には長尾さんが残ってくれると嬉しいけれど、でも手放しで喜べないなあ」
「いろいろ騒がせちゃって、ごめんね」
さつきは自分の席に座った。
「くしゅん」
座った途端、くしゃみをひとつ。
「あれ、風邪ですか?」
リカが隣から心配そうに覗き込んだ。
「うん、ちょっと」
濡れたまましばらくいたから、軽い風邪をひいたらしい。ちょっとだるいようにも思う。
「薬、ありますよ」
「じゃあ、もらおうかな」
「いいですよ」
リカが自分の引き出しを開けたその時、秘書室の扉が開いた。
リカが慌てて立ち上がる。さつきも素早く立ち上がった。
「おはようございます」
「ああ、おはよう」
社長が出社してきた。