クールな社長の甘く危険な独占愛
いつもと変わらない姿。グレーのスーツにブルーのタイ。銀縁のメガネをかけ、髪もきれいに整えられている。
神経を尖らせ、冷たいオーラが見えるよう。
ずぶ濡れのままキスをしてきた人とは、まるで別人。
さつきは顔がカアッと熱くなった。その様子を見られたくなくて、必死に平静を装う。
「長尾」
名前を呼ばれて、ビクッと身体が動いた。
「退職を取り消してくれて、助かった。ありがとう」
社長はそう言うと、表情ひとつ変えずさつきの前を通り過ぎる。
「ご迷惑をおかけしました。今後ともどうぞ宜しくお願いいたします」
さつきは深く頭を下げた。
社長が扉のところで振り返る。
「誰か風邪薬を持ってないか」
リカが素早く「持っております。お持ちしましょうか」と尋ねる。
「ああ、よろしく」
そう言って、社長室へと入っていった。
社長の姿が消えると、秘書室全体にほっとした空気が流れる。
「社長も風邪……ん〜?」
リカが疑るような目でさつきを見てくる。
「流行ってるのかな?」
さつきは動揺を隠すように、にこりと微笑んだ。