クールな社長の甘く危険な独占愛
「ご存知だったんですか」
「はい」
武則が笑う。
「だってあの日、長尾さんの笑顔は引きつってましたよ」
さつきの顔が恥ずかしさで赤くなる。この人に嘘はつけない気がしていた。
「和茂もすぐに白状していました。なんでも長尾さんには本当の婚約者がいるとかで」
武則がいうと、さつきは目を伏せた。
「ちょっと事情がありまして……」
武則の顔が曇る。
「まさか、和茂のせいで問題が起きたんじゃ?」
「もともと、あまり乗り気ではなかったんです」
さつきはあいまいに微笑んだ。
武則が小さくため息をついた。
「和茂は、自分の影響力を考えず、気軽に口を出すんだ」
さつきの頭に、ずぶ濡れでキスをしてきた社長が浮かんだ。『気軽』というには、真剣すぎたかもしれない。
「いいんです。社長が口を出してくれたおかげで、なんていうか、後悔するような選択をせずにすみました」
「だって、それで長尾さんの人生が変わってしまったんだよ」
武則は本当に腹を立てているようだ。口調に厳しさが混じる。なんだかさつきは社長に申し訳ないような気持ちがしてきた。
「社長はよくしてくださっています」
さつきは思わずきっぱりとした口調でそう言った。
武則が少し面食らったような顔をした。それから「もしかして」と続ける。
「もしかして、長尾さんは和茂に惹かれている?」