クールな社長の甘く危険な独占愛
さつきの顔にカッと血がのぼる。思わず首を振った。
武則の視線が突き刺さる。この人には心の奥を見透かされる。さつきは同様して、再びグラスの水を飲んだ。
「長尾さん」
声に慎重な響きが混じっている。
「あいつには、期待しないほうがいい」
さつきは顔を上げた。とても心配そうな表情をした武則が目の前にいる。
「僕はこれまで、あいつが女性に真剣に向き合ったのを見たことがない。酷なようだけれど、長尾さんに対するちょっかいも遊びの一つでしかないと思うよ」
武則が申し訳なさそうな顔をする。
「長尾さんを婚約者だって僕に紹介したことからもわかるだろう? あいつはその場凌ぎでなんとかしようとするタイプなんだ。飄々として、奔放で、何かにとらわれることなんかない」
「会社ではとても冷静で、的確な判断もご指示もありますし、ごまかしたりは絶対にしませんんけれど」
さつきが言うと「本当になんで会社経営なんかできてるんだろうな。不思議だよ」と武則が呆れたように笑った。
「あいつみたいに生きられればよかったのにって、思うときもあるよ」
武則が言う。
「僕はやっぱり長男気質で、家や親、世間体に縛られているんだ。正直言うと、あいつが羨ましいよ」
「わかります」
さつきは思わず同意した。
親の期待を裏切れず、ずるずると婚約し続けていた自分と重なる。
「こんな言い方して申し訳ないけれど、あいつに振り回されないで。長尾さんが悲しい思いをするよ」
武則は本当に心配してくれているのだろう。
さつきは複雑な気持ちだった。