クールな社長の甘く危険な独占愛
そうか、そういえばそうだった。
和茂は一瞬躊躇した。
俺は、さつきと、どうしたいんだ?
「さつきとは結婚しなければいいんだろう?」
「彼女はどう思ってる? 彼女の人生を巻き込むんだぞ」
武則の顔に寂しさが浮かんだ。
「俺の二の舞にはなるな」
和茂は武則の結婚式を思い出した。
その横に立つ、美麻の美しく幸せそうな笑顔も。あれは五月。陽の光に真っ白なベールが輝いて。
『もう和茂って、呼び捨てちゃダメよねきっと』
美麻が恥ずかしそうに笑う。
『俺は気にしないけど。美麻ネエサン』
和茂はポケットに手を入れて、姉になった自分の元恋人を見た。
『うわっ。それ気持ち悪いわ』
美麻が眉間にシワを寄せた。
和茂は笑う。
『タケは、それくらいで怒ったりしないよ。全部知ってて、それでも結婚するって言ってるんだ。俺なんかよりもずっといいやつ。幸せにしてくれるよ』
『それは知ってる』
美麻が言った。『わたし、幸せになるね』
「まあでも」
武則の声ではっと我に返った。
「なんだ?」
「いやでも……」
武則が言う。「ちょっとホッとしたかな」
「なんで?」
「お前が人を好きになるだなんて、想像もしなかったからさ」
武則が立ち上がった。
「とにかく、長尾さんの身辺調査はすぐに上がってくるはずだ。そうなればすぐにでも『結婚』しろと親父は騒ぎ出すだろう。覚悟しとけよ。逃げないでなんとかしろな」
そう言って「じゃあまた」と社長室を出て行った。