クールな社長の甘く危険な独占愛
社長が腕を伸ばしたので、さつきはとっさに身をそらせる。社長はそのまま蛇口をひねり、水を止めた。
「確かに、女に本気になったことは、これまで一度もなかった」
社長の美しい顔が目の前にある。冷たいオーラはまとっているのに、視線はなぜか熱い。
さつきは濡れた手のまま、半ば怯えて社長の顔を見上げる。怖いけれど、目が離せない。
「さつきは、初めて本気で欲しいと思った女だ」
さつきは一歩下がった。
胸が壊れんばかりにドキドキしている。雨の中で『好きだ』と言った社長と重なる。冗談にしてはあまりにも真剣な瞳。
手首を掴まれて、さつきは思わず「いやっ」と抵抗した。
「いや? 嘘だろう?」
社長がもうひとつの手でさつきの顎を掴む。
「キスすれば応える。お前の吐息が甘くなる。それでもまだ『好きじゃない』って言い張るつもりか?」
手首を掴む社長の手に力がこもった。さつきの指先が痺れてくる。
さつきは顔を背けようとしたが、男の人の力は強く動けなかった。
社長はさつきの耳に唇を寄せる。
「俺のものだって、言えよ」
さつきは唇を噛む。
社長の熱い息が耳と首筋を刺激して、身体がぞくぞくした。
流されたいという、身体の奥底から膨れ上がる欲望。
全部を投げ出して降伏したい。その快感を期待する。
「……やめてください」
さつきは、こみ上げる涙をこぼさまいと、瞳を閉じた。
「わからないんです」
さつきは言った。
「本当にわからないんです。だからもう、やめてください」
社長の手が緩む。さつきはとっさに社長の胸を押しやると、キッチンから飛び出した。そのままベッドに潜り込む。この部屋で逃げ込む場所はここしかない。
さつきは布団の中で泣いた。
どうしてこんなに悲しいのか、よくわからなかった。