クールな社長の甘く危険な独占愛
三
持っているワンピースは、この季節にはまだ少し薄い気がする。
さつきは鏡の前で桜色のショールを羽織ってみた。
「これしかないし……」
さつきは諦めたようにそう呟くと、エナメルのクラッチバッグを手に取った。
コンタクトをして、髪をゆるくアップした。プチプラのネックレスをしたら、それなりに『清楚』に見える。
「どこに行くのかしら……ほんと、しんどい」
さつきはがっくりと肩を落とした。
ポインテッドトーのハイヒールをはいて、少しよろめく。
「履きなれないから」
さつきは自分を擁護するように、独りでつぶやいた。
エレベーターホールで待つ。
落ち着かない気持ちで、ショールを直したり、髪を触ったりした。
「じゃあ、行こうか」
後ろから声がしたので、さつきは振り返った。
誰……ですか?
さつきは、瞬きした。
「長尾もそんな格好できるんだな」
「社長……ですよね?」
さつきは半信半疑で尋ねた。
「あたりまえだろ」
社長はサングラスを外し、胸ポケットに入れる。
そして、さつきの反応を楽しんでいるような表情を見せた。
黒い細身のジャケットに、ストライプのシャツ。
くるぶし丈の細いパンツに、フラットシューズ。
ビジネススーツのイメージしかないさつきには、まるで別人のように見えた。