クールな社長の甘く危険な独占愛
「あなたはすごく現実感のない人。それがわたしを不安にさせるんです。どうして目の前にいるのに、一緒にいない気がするんだろうって。すごく綺麗な人だからってだけじゃない」
さつきは頬の涙を手のひらで拭った。
「あなたはきっと、両極端な自分を演じているんです。会社でのあなたと、プライベートでのあなたは、どちらもあなたの中にあるもの。でも本当のあなたじゃない。わたしはいつも、演じるあなたを見ている」
「本当のあなたがみえない。未来がみえない。不安だらけで。わたしのこのむねの高鳴りも、演じるあなたに感じているものだから」
口に出すとしっくりくる。自分の気持ちがよくわからなかったのは、女性と遊んでいるから、信用できないからだけじゃなかった。
「今のわたしには、あなたを好きだと言える自信がありません」
社長がさつきの身体を離し、視線をそらす。ベッドに腰掛けて、膝に肘をつき髪をかきあげ手が止まる。考えるように首をかしげ、唇を噛んだ。
「どんなに甘いキスをしても、さつきが落ちないわけだ」
軽く息を吐く。
「悪かった」
社長はシャツを拾い、立ち上がる。そのままさつきに背を向けた。
「……おやすみ」
社長は部屋を出て行った。一度も振り帰らない。
部屋と身体には、熱気だけが取り残されたけれど、さつきの心は冷えている。ベッドから立ち上がり、壁際のクローゼットを開けた。
『悪かった』という言葉は、どういう意味だろう。
今夜のこと?
それとも、すべて?
いずれにせよもう、社長と一緒にはいられない。
ジャケットのポケットから、武則の名刺を取り出した。社長と離れるなら、仕事を変えるしかない。
明日、連絡してみよう。
そう思った。