クールな社長の甘く危険な独占愛
二
扉を後ろ手で閉めて、仄暗い部屋に立ち尽くした。冷たいフローリングに触る足の感覚が、自分を現実に向き合わせる。
ずっと、物事を真面目にとらえようとしてこなかった。優秀で従順な兄と、半端で不真面目な自分。けれどそれは、傲慢な父親に反発して、父親が命令するすべてのことの、まったく正反対をしようと「努力」してきたのだ。
逃げたかった。家を出て、夢を追いたかった。
だから、家を出ることを許さない父親を「その場しのぎで」うまく言いくるめるため、映像の会社を立ち上げることにした。結果、自分の夢を「売上」として、目に見えるものにせざるをえなくなったのだ。
「売上」を出さないと、家に引き戻される。必死になった。けれどすぐにぶち当たる。「その場しのぎ」の自分では、社員は自分についてこないのだ。父親が『お前はなめられる』と言った言葉が身にしみた。
それからずっと、企業のトップである父親のように振る舞ってきた。それは自然と、自分の中から出てきたのだ。抑圧されてきた過去を、身をもって再生している。自分が「父親」になると、社員は身を強張らせ、思い通りに動くようになったから。
和茂はリビングに出ると、ソファに力が抜けたように座り込んだ。
大きく開かれた窓から、月が見える。屋上に作られた嘘の庭の、その木々の隙間から、白く光りを放つ。
和茂は天井を見上げた。
「疲れたな」
大きなため息とともに、小さく呟いた。
どちらの「自分」でいても疲れる。
「誰も気づかなかったのに……すげーな、あいつ」
和茂の唇に、薄く笑みが広がった。
もう自分でも、どうしたらいいかわからないところまできてる。今の自分が破綻しかかっている。突然人間関係を整理したくなったのも、会社の人間であるさつきにちょっかいを出し始めたのも。
「まずいな、俺」
和茂は目を閉じた。