クールな社長の甘く危険な独占愛
今日の昼、父親に呼び出されたが、和茂は気乗しなかった。気乗しないのはいつものことだったけれど、今回は悪い予感がしたから。
日広の本社にある社長室に入ると、父親が相変わらずの顔で待っていた。隣に武則が立っている。深い絨毯に、白檀の香り。
「この間連れてきた女には、別に婚約者がいるじゃないか」
突然、父親が言った。近況を聞いたり、お互いを労ったりするような、そんな親子なら当然の会話をすべて排除して、冷たく言い放つ。
「身辺調査をしたら、親がいないこと、出身校は本当だった。でも大学時代でも就職してからも男の影がないのは、地元に結婚を約束した男がいたからだ」
父親がどすんと音を立てて、背もたれに体を預けた。
「お前はまったく、しようのない奴だな、相変わらず」
武則を見ると、苦り切ったような顔をしていた。浅はかな嘘をついた和茂を哀れむような視線。
でも和茂はどこかホッとしていた。そして、同時に寂しい気持ちも。さつきとつなぐ細い線の一本が切れてしまう気がした。
「お前ももう30だし、実績も出している。そろそろ家に戻る頃だ」
断定的な言い方。「いやだ」とは言わせない冷たい声音。
「今から見合いしてもいいし、この女でも構わない。結婚して跡取りを作れ。横の男はもう二度と結婚しないと、バカみたいな強情を言ってるからな。子供が産めないあの女に、自分の一生を捧げるなんて、愚かにもほどがある」
武則の顔は、能面のように表情がない。父親からの嫌味など、もう幾度となく聞いて、怒る気力も失せているのだろう。