クールな社長の甘く危険な独占愛
「しかし……」
父親が低い声で笑った。
「お前もいやだいやだと言いながら、わたしに似ているのだから笑える。女の身辺調査ついでに、おまえの働きぶりも調べたら、どうにも会社では随分と冷酷なようじゃないか。わたしから逃げるならとことん逃げればいいものを、そこまで落ちきれないお前は、やはりわたしの息子」
父親が椅子の肘掛に手を置いて、まるで観察するように和茂を眺めた。
「そろそろ認めろ。長い反抗期は終了だ」
父親が椅子から立ち上がった。ゆっくりとこちらへ歩いてくる。オーダーメイドのグレーのスーツ。宝石のついたタイピン。ずっと和茂を捉えて離さない「父親」という名の、看守。
和茂は唇をかんだ。血がにじむほど強く。
「あの女、いくらで買った?」
看守の声がする。
「金でなんとかなる女は、桐田の家には都合がいい。あの地味な女と結婚して、家に戻れ」
喉がいがらんだ。それでも口に出す。
「彼女とは……結婚しない」
「……もっと若い女を連れてくるか?」
「誰とも結婚しない」
父親が呆れたような顔をした。「まだそんな強情を。武則に子供ができないなら、お前が作るしかないだろう」
「……うるさい」
和茂は言った。
口の中だけで、小さく、弱々しく。その言葉が脳内を響いて駆け巡る。
聞こえない父親は、黙り込んだ和茂をあざ笑うような表情をする。和茂は父親に背を向けた。