クールな社長の甘く危険な独占愛
知らなかった。
和茂は呆然と武則を見つめる。髪が乱れて、頬が上気している。そしてどことなく安堵している様子も。
きっとずっと、兄貴は俺を責めたいのに、堪えていた。
「……俺……」
和茂は何か言おうとしたが、何を言っても薄っぺらな慰めにしかならない気がして、再び口を閉じた。
武則がそんな和茂を見て微笑む。
「俺は経営している会社もあり、大切な社員もいる。美麻を追ってここから逃げるわけにはいかない。だから俺は覚悟を決めたんだ。美麻以外の女性と、未来を築くことはないと」
「さつきはもしかしたら、タケに好意を抱いているかもしれない。それでもその覚悟はゆらがない?」
和茂は尋ねた。
「まあ、俺はお前に虐げられている女性に惹かれるクセがあるから、誘惑を退けるのは大変だと思うけど」
武則は笑った。「変わらないよ」
「そうか」
ホッと息をつく。
そんな安堵は、目の前の問題と比べてたら、大したことではないのに、和茂は心からホッとした。
「お前は、どうする?」
武則が尋ねた。「もう、決断するときだ」
和茂はさつきの生真面目な顔を思い浮かべた。それからキスをしたときの真っ赤な頬や、言葉ではダメだと言いながらも和茂を受け入れてしがみつく、その手の平。
そんな決断、できるのか、俺に。