クールな社長の甘く危険な独占愛
社長が突然にこりと笑った。その瞬間、とまどいが役員たちの顔に現れる。
「『日広』はいい会社だ。傘下に入れば、わたしよりもずっと優れたリーダーが派遣されてくるだろう。可能性も広がるし、この会社にとっても飛躍のチャンスかもしれない」
役員がざわめいた。買収を甘んじて受け入れるという社長の発言。これまでの彼からは想像もできないことだ。
「……社長はそれでよろしいんですか?」
白髪交じりの副社長が、信じられないというように尋ねた。
「みなさんがいいと思うなら構わない。この会社のためだから。でももし『日広』の傘下に入るの嫌だというなら、僕は頑張ろうと思う」
社長のメガネの奥の綺麗な瞳が、穏やかに笑っている。
「今日中に各部署にこの事実を伝え、部署内で意見をまとめて、社長室まであげてくれ。それによってこの先を決めよう。これから……」
武則を手で紹介する。
「彼は『日広』の役員だ。これから傘下に入るとどういうメリットデメリットがあるか、話してくれると思う。それもよく聞いて決めてくれ」
武則にバトンを渡すと、社長は会議室を出て行った。こんな窮地に立たされていたら、もっとずっとピリピリするはずなのに、なぜかどこか余裕を見せている。
さつきの心に複雑な思いが膨らんだ。