クールな社長の甘く危険な独占愛
会議室の扉がパタンと閉まる。
武則が中央に歩き出て、日広について説明を始めた。役員たちは熱心に耳を傾けている。
さつきはそれどころじゃなかった。会議室を出て行った社長の背中が何度もちらつく。
社長、大丈夫だろうか。だって、あんなに家を嫌っているのに、こんな追い詰められ方……。
メモを取るペンの汗が滲んだ。
武則の話が終わると、役員たちが立ち上がり始める。本当は最後に部屋を出るべきだろうが、いてもたってもいられなかった。会議室の扉をバタンと開けて、廊下に出た。足早に社長室へ向かう。
秘書室に入ると「あ、長尾さん」とリカが声を上げたが、さつきはまっすぐ社長室の扉をノックした。
「どうぞ」
柔らかい声。さつきの胸がどきんと脈打つ。いつも社長室の扉越しに聞こえる、あの冷たくて恐ろしい声音じゃない。軽いナルシストの声でもない。
まっすぐな声。
「失礼します」
さつきは扉を開けた。
「ああ、さつきか」
丸眼鏡をかけた社長が、さも嬉しそうに笑った。
「みんなはどうだった?」
コンピュータを前に、余裕のある表情。
「役員の方々は熱心にお話を聞いていらっしゃいました」
なんだか落ち着かなくて、声が喉にからんだ。
「『日広』に買収されるなら、まあ悪いことなどないだろうな。『日広』にしてみれば、あたらしい業種だし、こちらの方針を優先してくれるだろうから」