クールな社長の甘く危険な独占愛
「……社長はいいんですか、それでも」
さつきは思わず声を上げた。
『日広』の傲慢な社長の顔が思い浮かんだ。息子を自分の自由にするために、頑張って大きくした会社を取り上げる。そんなこと、あっていいのだろうか。
「……別にいいよ。会社と社員のためになるなら、それもよし」
のほほんと、そんなことを言う。
「悔しくないんですか?!」
さつきは叫んだ。「だって、家に強引に引き戻されるんですよ!」
すると社長は、椅子の背もたれに体を預けて、力を抜いた。
「いい頃合いだ。俺はずっと、意地でこの会社を続けていたんだ。もちろん会社に愛着はあるし大切だけれど、基本の原動力は父親への反発心」
お腹のあたりで、両手を組む。話す内容と対照的に、とてもリラックスしているような様子だ。
「でも結局、父親の呪縛からは離れられなかった」
さつきは立ち尽くした。
社長は本当にこの会社を手放すつもりなんだ。
「昨日さつきに言われて思ったんだ。無理をする自分を手放してみようと。会社での振る舞い。プライベートでの振る舞い。さつきの言うとおり、俺は両極端な自分でいようとしていた。本当の自分は隠して。もし本当の自分が父親に似ていたら? それに……もし本当の自分が父親に似ていなかったら?」
社長が軽く微笑む。
「どちらも俺には、怖かったんだなって、気づいた」