クールな社長の甘く危険な独占愛
社長が椅子から立ち上がる。窓からの光で、頬に影ができている。ウェーブのかかった髪がふわりと動いた。ゆっくりと社長がさつきの方へと歩いてくる。
目の前に立つと、ほのかに甘い香りが漂う。胸がうずいてさつきは戸惑った。「ちょっかいをだされるかも」という警戒心はどこかへ行ってしまい、社長の胸の真ん中あたりに頬を寄せたいという、信じられないような欲求が沸き起こった。
顔がカッと熱くなって、思わず視線をそらす。
社長はさつきをそっと抱き寄せて、髪に頬をつけた。温かな鼓動。
あ、そうだ。こんな風に抱きしめられたこと、前にもあった。『日広』でひどいことを言われた後だった。車のなかで。あのとき、思わず社長の背中に手を回したんだった。
「さつき」
「……はい」
「さつきが欲しいんだ。ずっとそばにいて欲しい。でもあの父親のいる家に入るということは、さつきを不幸にすることでしかないから」
さつきの心臓が、どくんと一つ大きく動く。
「本当の自分と向き合うと、答えは一つしかなかった。さつき、君を」
「あの! 失礼します!」
突然リカの声が後ろから聞こえて、さつきははっと我に返った。
社長の腕が緩んだので、さつきは飛び跳ねるように後ろへさがった。
動揺している。
リカに見られたことだけではなく、社長の言葉の先に何があるのかを想像したから。
「さつき、君を、手放すことにした」
そう続くんじゃないかと、そんな気がしたのだ。