クールな社長の甘く危険な独占愛

しんと静まり返った秘書室。社長は「帰れ」と言ったけれど、あの広い部屋に一人戻るのは気が引けて、さつきはもうしばらく残ることにした。

社長のスケジュールは今や分刻みで動いている。大変な時期だから仕方がないのだとは思うけれど、これでは身がもたないだろうと思った。

ぼんやりと窓の外を眺めると、いつのまにかポツポツと雨が降り始めている。小さな水滴が窓ガラスに当たって、あっというまに東京の夜景を歪ませた。

小さく刻む時計の秒針。会議は長引いているようだ。机に肘をつき、社長のことを考えた。自分の気持ちも。

引っ掻き回されて、おもちゃみたいに扱われて、それでも「好きだ」と言ってくれて。

社長の気持ちは、もしかしたら気まぐれなんかじゃないのかもしれない。ちゃんと先を見つめてくれているのかもしれない。だからわたしを手放そうとしてるんだ。

社長と離れて、わたしはどうする?

さつきはメガネをとって目をこする。右手にあるフレームを眺めた。

自分とは不釣り合いな金額のフレーム。メガネを踏みつけたことも気づかぬほど、動揺していた社長。「負けでいいや」そう言ってキスをした。冷たい雨の中、彼の体温だけが燃えるように熱くて、思わずキスに応えていた。

わたしは、社長と離れるの?

突然、秘書室の扉が開く音がして、さつきははっと顔を上げた。

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