クールな社長の甘く危険な独占愛
カバンのストラップを握りしめる。
「買収阻止はできなかったんですか?」
さつきは思い切って尋ねた。
役員の一人が、見るからに肩を落とす。
「社長から聞かなかったか? もう日広に過半数の株を取られたよ。あんな大企業相手に、無理な話だったのかもな」
さつきは反射的に踵を返した。役員に挨拶することも忘れ、廊下を走る。
社長が負けた。
負ける勝負をしない社長が。
心臓が爆発しそうに動いている。秘書室の扉を勢いよく開けて、社長室の扉の前に立った。ほんのすこししか走っていないのに、まるで長距離を走り終えたような息。なぜか呼吸しづらい。
ひとつ大きく深呼吸して、社長室の扉をノックした。
返事がない。
さつきは不安をごくんと飲み込むと、もう一度ノックをする。
返事がないのは「顔を見られたくない」という意思表示だ。これ以上踏み込むな、迷惑だ。そう言われているのだ。
でも。
冷たい目で見られても、邪険にされても、それでも、今社長を一人にする気にはなれなかった。
さつきはドアノブを握りしめ、そっと扉を開いた。