クールな社長の甘く危険な独占愛
「いつ結婚するんだ?」
武則が日本酒を手に尋ねた。
「まだ決めてない」
和茂が答える。
「早く決めろよ。親父が早くあの会社を売って、帰ってこいって言ってるぞ」
「親父の好きにはさせないよ。あれは俺の会社だ」
「……相変わらず、わがままな。道楽の延長線上だろ?」
武則がそう言うと、和茂があからさまに顔をしかめる。
「約束通り、売上は出してるんだ。道楽じゃない」
武則が一つため息をつく。
「お前はいつだって、そうやってうまく親父から逃げるんだ」
「タケが親父に従いすぎるんだよ」
「……長男の性分だな」
武則はそう言って、照れたようにさつきに笑いかけた。
「こいつは、経営学部に進めっていう親父の言葉を無視して、勝手にデザイン学科に進んだし。日公グループの関連会社の一つを任せるつもりだった親父に歯向かって、映像制作会社を立ち上げたんだ。ほんとに、問題児だよ」
「いいじゃないか。親父にはタケがいる」
和茂はそう言って笑った。
「でも結婚したら帰る約束だぞ」
「ああ、わかってる」
「どうだか」
武則は肩をすくめた。
さつきは、なんとも不思議な気持ちでこの兄弟のやり取りを聞いていた。
会社での印象と随分違う。
統率力があって、みんなから尊敬と恐れ、両方を持たれている、そんな人には見えなかった。
親に反発している、末っ子。
そんな感じだ。
和茂の顔を伺うと、向こうもさつきをちらっと見る。
目があうと、落ち着かない。
さつきは慌てて目を逸らした。