クールな社長の甘く危険な独占愛
就業前のいつもの準備。
コーヒーを入れ、軽い掃除をして、メールをチェックする。
その間も、さつきの心は落ち着かない。
どうしよう、あれが夢じゃなかったら。
『土曜日はお疲れさまでした』とか、言った方がいいんだろうか。
隣を見ると、リカもこっちを見る。
目があった。
「長尾さん、今日はどうしたんですか?」
「え? なんかおかいしい?」
さつきは慌てて自分の頬を両手で挟んだ。
「まだ社長がきてないのに、ものすごく緊張してる」
リカはそう言うと、自分の眉間を伸ばすような仕草をした。
「眉間にしわ出てます、伸ばして伸ばして」
「あ、ごめんなさい」
さつきは、自分を取り戻そうと深呼吸した。
そこに、扉が開く音。
リカと、副社長つきの秘書二人がさっと立ち上がった。
さつきも立ち上がる。
「おはようございます」
一斉に頭を深く下げた。
「おはよう」
社長が言った。
グレーのビジネススーツ。えんじ色のタイがよく合っていた。
銀縁のメガネの奥の瞳が冷たい。
スキがなく、張り詰めていて、いつも通りだ。
さつきの目の前を通り過ぎるときも、さつきの顔を見なかった。
やっぱり、あれは、似ているようで、別人だった。
というか、全部夢。
社長室へと入っていく背中を見ながら、さつきは安堵して、肩の力が抜けた。