クールな社長の甘く危険な独占愛
「そんなこと言って、騙されちゃだめよ。わたしも随分騙されたんだから」
マスターがさつきに囁く。
「マスターを騙すのは、マスターが好きだから」
「またうまいこと言って」
マスターは笑って、奥の厨房へと入っていった。
「女の子たちと遊ぶのやめたのは、本当」
グラスを片手に、肘をつく。さつきを見て、微笑んだ。
「さつきとだけ、遊ぶ」
「結構です」と思わずいいそうになる。
どれぐらいハッキリ言ってもいいのだろうか。自分の雇い主に対して。
気持ちを読んだのか、また意味ありげに社長が笑う。さつきは早く家に帰りたかった。
バーなのに、食事メニューが充実しているのか、次から次へと美味しそうな品が出てくる。けれど、さつきはすっかり食欲がなくなってしまった。隣にいるきれいな遊び人が、じっとこちらを見つめてくるから、しんどいのだ。
「社長……」
「ん?」
「まだ月曜日なのに、たくさん飲んでいらっしゃいますね」
すでにロックの焼酎、三杯目に突入した社長は、顔色ひとつ変えていない。
「ほとんど毎日、接待で偉そうなオジサンたちと飲むんだ。ひとつも楽しくない。たまにこうやって飲むときは、何も考えずに楽しみたいだろ?」
「お強いんですね」
「親譲り」
ニコッと笑う。
笑うと、きれいな顔がとたんに愛くるしくなる。
どういう遺伝子で、こんな顔が生まれてくるんだろう。
さつきは不思議でならない。