クールな社長の甘く危険な独占愛
夜の十一時頃、社宅にたどり着いた。
もう、寝たい。
明日も早いし……。
さつきはあくびをかみ殺したが、隣で社長は大あくびをしている。
エレベーターを降りると、さつきの部屋の前にまで来た。社長の部屋はさつきの部屋を通り過ぎた、奥の角部屋だ。
「ごちそうさまでした。おやすみなさい」
さつきは丁寧にお辞儀をした。
「付き合わせて悪かったな。また明日、会社で」
社長らしい言葉を口にする。
今日は、これで終わり。
ほっとして、鍵を取り出そうとポケットに手を入れた瞬間、社長の腕が伸びてさつきの額の髪をあげた。突然のことになんの警戒もしていなかったので、さつきは動揺してよろめく。
社長がもう片方の手でさつきの腕を支え、それから額に軽くキスをした。
「おやすみ」
社長が笑って言う。
胸がドキドキして、視界が揺れる。
社長は何事もなかったように、廊下を自分の部屋へと歩いていく。
パーカーを着たその後ろ姿を見ながら、さつきは「あのっ」と声をかけた。
「ん?」
社長が、廊下の途中で振り向く。
「あのっ、本当に、もう、こんなこと……やめてください」
「……どうして?」
社長が首をかしげる。
「私、いるんです」
さつきは、かすれる声で必死に言った。
「私、結婚の約束をした人が、いるんです」