クールな社長の甘く危険な独占愛
「社宅に入居しました」
当時隣の席に座っていた秘書の丸山に言ったら、絶望的だという顔をされた。
「まさに、地獄ね」
顔面蒼白になりながら、丸山は息も絶え絶えにそう告げた。
「リラックススペースであるはずの自宅で、戦々恐々としなくちゃならないのよ。万が一、エレベーターとかで一緒になったら? 廊下ですれ違ったら?」
丸山が頭をかかえた。
「恐ろしすぎる……。悪いことは言わないから、お金を貯めたらすぐに社宅を出た方がいいわ。精神が持たない」
丸山の言っていたことは、当たっていた。
今や、さつきはいつ引っ越しするか、それしか考えていない。
秘書という仕事柄、社長が退社するまで帰宅できない。
ということは、さつきが帰るころには、社長は必ず隣の部屋にいるのだ。
物音を立ててはならない。
廊下に出るときは、いないことを確認してから。
友達を呼ぶこともできないし、滅多な格好で外出できない。
さつきは社長の冷たい目を思い出して、身震いした。
彼の笑ってるところを見たことがない。
あの顔だもの。
笑ったらきっと、すごく魅力的に違いないのに。
そこでふと、千葉常務に送らなくてはいけないメールを、保留にしていたことを思い出した。
月曜日の役員会議の件。
「しまった」
さつきは思わず声に出した。
社長に叱られる。
慌ててさつきは、出かける支度を始めた。