クールな社長の甘く危険な独占愛
「迷惑です」
唇を噛み締め、背筋を伸ばす。
社長が真面目な顔でさつきを見返した。
「私、結婚する人がいるんです。彼にこんなこと、知られたくありません」
「……本当に結婚するのか?」
「はい」
さつきは『はい』と自分で言ってから、とたんに気弱になる。
私は本当にあの人と結婚するのだろうか。
「付き合って長いのか?」
「……付き合っては、いません」
「なんだそりゃ」
社長は訳がわからないという顔をした。
「事情があるんです」
さつきは神妙な顔で言う。
「借金?」
「ちがいます」
「納得いく理由だったら、手を引いてもいいから」
社長が真剣に言うので、さつきはつい「親の遺言です」と答えてしまった。
「遺言?」
社長が不可解だと言わんばかりの声を出した。
「母は早くに亡くしました。父は七宝焼きの職人で、子供は娘である私一人。父は、当時の一番弟子である人に技術をすべて伝え、その人と私が家庭を築くよう、言い残しました。孫に、技術を伝えてほしい。長尾の名を残してほしい、と」
「……馬鹿じゃねーか」
社長が呟く。
さつきは「本気です!」と、声を荒げた。