クールな社長の甘く危険な独占愛
「そんなの律儀に守るやつ、いる訳ないじゃないか」
「……あの人も、わたしも、守るつもりです」
社長が呆れたというように肩をすくめる。
さつきはなんだか悲しくなってきて、潤んだ目を見られないよう下を向いた。
「じゃあなんで、さつきは今東京にいるんだ? さっさと結婚すりゃいいじゃないか」
「それは……あの人が結婚前に外を見てきてもいいって、言ってくれたから」
「ふうん」
社長にじっと見られると、すべてを見透かされてしまう気がする。
本当は、もう何年も前からずっと『いつ帰って来る?』と聞かれていることを。
本当は帰りたくなくて、いつもあの人の言葉をはぐらかしてしまうことを。
気まずい沈黙。
社長が何を考えているかわからない。
どうか、何も言わず、帰って。
ピリリリリという、さつきの着信音が鳴った。
さつきははっと我にかえる。
社長はまださつきを見続けたままだ。
「し、失礼します」
さつきはライトグリーンのソファの上にあった自分のバッグから、携帯を取り出す。
『柴山昌隆』
あの人からだ。
さつきは出るかどうか迷う。社長の前で話すのはためらわれた。
「出ろよ」
冷たい声が耳に届いた。
さつきの心臓が冷える。
とっさに『通話』ボタンを押した。