クールな社長の甘く危険な独占愛
「親はなにをやってる?」
「父は伝統工芸の職人でしたが、もう二人とも他界しました」
さつきが言うと、あからさまに顔をしかめる。
「親なしか」
「親父、そんな言い方はないだろう?」
あくまで怒りを見せず、表面上は穏やかに。
「職人なんていう、訳のわからない親がついてきても、困るからな。死んでてよかった」
さつきは耳を疑った。
親のことを、こんな風に言われるなんて。
思わず唇を噛む。
父親がさつきを見据える。
「お前の仕事は、男の子供を産むことだ。少しでも身体に問題があるなら、結婚を許すことはない。すぐにうちのかかりつけの医者に、予約をとれ」
社長がたまらず「親父」と声を出した。
「親父、失礼すぎるよ。それに……まだ結婚は先だ」
父親の眉が上がる。
「もうこの女は二十八だぞ。すぐに枯れる」
「……そんな言い方はやめてくれ」
「何言ってるんだ。あの女の二の舞は困るんだぞ」
さつきは、手が震えてきた。
嘘の婚約者ではあっても、深く傷つけられた気がする。
社長がさつきの手を握った。
「もう、行くよ。仕事があるんだ」
「道楽ばかりしてないで、もっと自覚を持て」
父親の声を背にする。
さつきはおぼつかない足取りで、社長に手を引かれて部屋を出た。