クールな社長の甘く危険な独占愛
ショックで頭が朦朧としながら、社長と一緒にタクシーに乗った。
車に揺られながらも、あの父親の言葉が頭の中を繰り返し流れる。
『職人なんていう、訳のわからない親がついてきても、困るからな。死んでてよかった』
『お前の仕事は、男の子供を産むことだ』
『もうこの女は二十八だぞ。すぐに枯れる』
自分の血液が猛スピードで身体中をめぐる。
こんなに屈辱的で侮蔑的なことを言われたのは初めてだった。
「……悪かったな」
社長が言った。
さつきは何かしゃべろうとしたが、うまく言葉が出てこない。ただ首を激しく振るだけ。
「あそこまで、たちが悪いと思わなくて」
社長に握られた指先の震えが止まらない。
本当はあの父親に、反論したかった。『ひどすぎる』『何様のつもりか』と、声高に叫びたかった。でもさつきは恐ろしさに身を縮めるだけ。
社長がさつきの身体を抱き寄せる。
いつもの香り。規則正しい鼓動。さつきは思わず背中に腕を回した。
「本当に申し訳なかった。父親のひどさは知っていたから、帰りには笑い話の一つにでもなるとおもったんだけれど。本当に、シャレにならなかったな」
「だ、大丈夫です」
胸に頬を埋めて、かすれた言葉を返す。
「……俺は一生、結婚するつもりないんだ。あの親父のいる家に、愛してる人を巻き込みたくない」
さつきは黙って聞く。
「でも『結婚しろ』ってうるさいから、結婚するつもりがあるということだけ見せておけばいいと。そう考えてさつきに婚約者の振りをたのんだけれど……でも結局、さつきを傷つけたな」
車が、広尾の会社へと近づく。
「もう二度と、こんな思いをさせないから」
そう言った。