クールな社長の甘く危険な独占愛

「親父に会ったんだって?」
武則が面白がるような顔をした。

夜十時。社宅近くの居酒屋。たまにこんな風に、武則と飲む。

「相変わらず、ひどい男だった」
和茂は吐き捨てるようにそう言うと、日本酒の枡酒を飲み干した。

「そりゃ、生まれた時から知ってるだろう?」
武則も升に口をつける。

「そうだけど……」
和茂は真っ青になったさつきを思い出す。「ひどすぎだ」

一番奥の二人席。照明は暗く、個室のように少し仕切られている。テーブルには蛸わさや川エビ。男と飲むには最高の場所だ。武則も和茂も、仕事帰りのビジネススーツ。

「彼女はなんて?」
「……何も」
「そうか」

武則がじっと和茂の顔を見つめる。それから「あの子、違うだろ」と言った。

「……違うって?」
「秘書ってだけだろう?」

和茂は黙る。それから「ばれちゃった」と笑った。

「なんでいつもお前は、その場しのぎなんだ?」
「う……ん、まあ、結婚結婚言われるの鬱陶しいし。『ちゃんと考えてるから』って言っておけば、親父も黙るかと思って」

仕方がないというように武則が笑顔を見せる。

「なあ、タケは? 結婚って言われないか?」
川エビの髭をもって、くるくると回す。それからぽいっと口の中に放り込んだ。

「俺はもう……言われないよ」
武則は仕方がないというような表情を見せる。「みんな、腫れ物に触るみたいだ」

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