クールな社長の甘く危険な独占愛
四
「疲れた」
さつきはカバンをソファに投げると、その横にどさっと腰を下ろした。
あの父親の毒気に当てられたのか、頭がジンジンする。さつきはこめかみを押さえたまま、カバンの中をかき回して頭痛薬を取り出した。
あの家は本当に大変だ。
初めて社長に少し同情した。
あんな強い父親の元に育ったら、ひねくれて外に飛び出したくなるのもわかる気がする。父親に歯向かって、離れたところで成功した社長は、本当に優秀な人なのかもしれない。普通なら飲み込まれて、出てこれなくなる。
『悪かった』
社長の言葉と体温は、さつきの身体の震えを止めた。もう何度も、遊びの延長でキスされそうになったり、抱き寄せられたりしたけれど、あの抱擁はいつもと違い、とても安心した。
さつきの胸が少し高鳴る。けれどそんな自分をごまかすように「だめだめ」と声にだした。
社長と向き合っちゃだめ。
それこそ、巻き込まれて、元の自分には戻れない。
遺言通りに結婚しようとしている、今の自分に。
『あの女の二の舞はごめんだ』
ふと、あの父親の言葉が蘇った。
あの女?
コップに水を入れようと、蛇口に伸ばしていた手が止まった。
かつて、父親に紹介した女性がいたんだろうか……。
高鳴っていた胸に、じわりと痛みが広がる。
さつきは首を振って、痛みを止めるため頭痛薬を口に入れた。